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弁護団からのメッセージ
本件は,1997年に日本医大附属で行われた女性(当時20歳)の下顎骨手術の際に固定用鋼線(Kワイヤー)が脳内に刺入したことを,手術助手を務めた郡家正彦医師が2年半後になって遺族に伝えたこと,またこれが新聞・テレビ等で報道されたことに対して日本医大が名誉を毀損されたとして,郡家医師に損害賠償を求めた裁判です。
患者は,1997年12月8日,河川敷で受傷し,下顎骨骨折などで地元の病院に入院しました。同病院で診療をした日本医大A医師は,日本医大附属病院で整復固定手術を受けるよう指示しました。12月15日,日本医大附属病院でA医師の執刀によりKワイヤーによる下顎骨骨折の整復固定手術が施行されたところ,第1助手として手術に加わっていた郡家医師は手術中にKワイヤーが深く刺入したことを目撃し,それを指摘しました。その際2枚の単純X線写真が撮られ,郡家医師はKワイヤーが脳内に刺入したものと確信しました。しかし,A医師はそれを否定し,手術を続行しました(但し,A医師はこのやりとりそのものを否定しています)。患者は,手術後間もなく高熱,乏尿,無尿などの症状を呈し,感染症を発症し,17日に亡くなりました。この時,郡家医師はKワイヤーの脳内刺入の事実などを家族に告げずにいましたが,そのことで良心の痛みを持ち続けました。その後,郡家医師は,2000年7月18日,患者の遺族と再会し,Kワイヤーの脳内刺入の事実を伏せたなどを告白し,謝罪しました。このことは,2001年1月22日の読売新聞の報道をきっかけに,各紙,テレビなどで大きく報道されました。
これに対して,日本医大とA医師は,同年12月26日,郡家医師に対して,名誉毀損による損害賠償請求をしました。
裁判では,ワイヤーが脳内に刺入する事故があったかどうかが最大の争点になりました。2004年7月26日,東京地方裁判所は,Kワイヤーの脳内刺入について「Kワイヤーが刺入したとの証明はない」と認定したものの,「そう信じたことには相当な理由がある」として日本医大らの請求を棄却する判決を言い渡しました。日本医大はこれを不服として控訴したところ,2005年11月9日,東京高等裁判所は,「Kワイヤーが脳内に刺入しているとの証明はない」とした上で,「そう信じたことに相当な理由もない」として,郡家医師に賠償を命じる判決を下しました。1、2審を通じて,裁判所に「刺さった」と判断する内容の4大学の教授・助教授らの鑑定意見書をそれぞれ提出しており,刺入したとの証明はないとの結論には,到底納得できるものではありませんでした。
当然ながら郡家医師は上告しました。そして,脳のレントゲンやCTの専門家にレントゲン写真やCTを送り意見を求めたところ,36名から回答があり,そのほとんどが脳内に刺入していると回答し,それを踏まえた証拠も提出しました。最高裁の上告審では,事実に関する判断は原則として行わないものとされておりますが,重大な事実誤認と最高裁が判断すれば事実に関する判断をすることも稀にあるからです。
しかし, 最高裁は,本年7月6日,実質的な審理をすることなく,上告を棄却し,高裁の判決が確定しました。結局,最高裁は,事実判断をしないという建前のもとに事実に関する判断を避けたのです。やむなく,郡家医師は,日本医大とA医師に合計約700万円の支払をしました。
私たち弁護団は,最後の砦である最高裁において,明らかな医学的誤りが是正されず,結局裁判の中で事実がねじ曲げられたままとなったことに怒りを禁じ得ません。また,このような結果となったことについて大変忸怩たる思いです。郡家医師の無念ははかりしれません。
もともと本訴訟は,大学病院の事実を隠ぺいする体質に抗し,医師としての良心に従って患者に誠実に向き合った医師に対する組織的な報復を目的として提起されたものであったと思います。
そして,このまま,郡家医師にのみ負担を負わせたのでは,その目的を果たさせることにもなりかねませんし,また,病院の隠ぺい体質に対して良心に従って闘っている全国の医師や医療関係者に少なからぬ打撃を与えかねません。郡家医師の闘いは決して郡家医師だけの闘いではなく,よりよい医療を求める多くの市民を代表した闘いであり,郡家医師だけのその負担を負わせるべきものではないと思います。
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